山本勘助は二人いた!! 「それ以上、話さぬ方がよろしかろう。傷に差し障りがあってはいかぬ」 「いや、話しておかねばならぬことだ。三河殿、これからはおぬしは一人で二人分の勘助を生きるのだから」 「……?」 「山本勘助は二人いた。しかし、今日よりは一人になる。……拙者は一足先にあの世に行って待っている。それまで、おぬしは拙者の分まで……勘助として思い通りの生き方をして欲しい。よいか、主取りは簡単に決めてはならぬ。諸国についての知識をおぬしは頭の中に叩き込んで、それを新しい武器にするのだ。すでに、城取も、陣取りも……おぬしは自分のものにしておる……」
江宮隆之(えみや・たかゆき) 1948年生まれ。「経清記」で第13回歴史文学賞受賞。植民地時代の朝鮮で植林事業を行い、陶磁器や工芸品を通して朝鮮の民族文化を日本に紹介するなど、日韓交流に大きな足跡を残した浅川巧を描く『白磁の人』で第8回中村星湖賞受賞。 主な作品に『凍てる指』『一葉の雲』『井上井月伝説』『歳三奔る』『女たちの新撰組』『武田勝頼──花の歳月』『母人形』『厄介屋天下御免』などがある。